あなた、死にますよ 3
※この話には前編があります。二つ前の記事からお楽しみください。
「お揃いの ペアマグカップ」
あれから、新聞ギャルを見つける事は、できなかった。
それどころか、喫茶店にも来なくなった。
気が付けば、コンドーム五箱分、彼氏とは続いていて、先日プロポーズされ、同棲を始めて、幸せな気分でいっぱい。
あれは悪い夢で、私が疲れていただけ。
広いリビングに、水色の可愛いソファ、それに、大きな富士山の油絵も飾り、もう新婚さん気分。
両家の挨拶やら、色々済ませたら、いよいよ結婚。
ああ、楽しみで仕方ない。
ハミングが溢れ、鍋がグツグツ音を立てて、甘いシチューの香りでキッチンは包まれ、お揃いのマグカップに早く食後の紅茶を淹れたくて、ウズウズする。
ピンポン。
帰ってきた!
「おかえり!シンジ、待ってた」
柔らかいお腹に抱きついて、幸せを噛み締める。
私が、これから、もっと太らせてあげるんだからね。
?
いつもなら抱きしめ返してくれる彼が、微動だにしない。
具合でも悪いのかな?
顔を上げると、神妙な顔をしていて、突然こう言い放った。
「出て行ってくれ」
…?
なんで?
言葉が出ない。
急に、なんだって?
混乱する中、彼は更に続ける。
「ごめん。君には悪いと思ったけど、興信所に依頼したんだ。もう全部わかってる」
?
「なんの、こ、と?」
「お前の浮気だよ!!!」
急に怒鳴り、また、涙を流し始める彼。
「俺は、こんなに尽くして来たのに…この尻軽女め。しかも相手の荒井コウヘイってやつ、嫁いるし、60超えてるだろ。お前おかしいよ」
心臓が、針で、ぷつんと割られたみたいに、跳ねる。
荒井コウヘイ…。
名前だけは、聞き覚えがある。
そうだ、あのオッサンが言ってた…。
私は彼を突き飛ばし、走る。
このままじゃ、嫌だ。
もう、どうなっても知らない。
彼を失った今、私は何も持っていない。
私が『井梅セイコ』を終わりにする。
両足がバラバラに折れんばかりの勢いで軋み、息が乱れて、吸ってんのか吐いてんのか、わからなくなる。
やっと、交番。
私は、思いっきり叫ぶように、告げる。
「九川リョウコを、滅多刺しにした凶器は、山に捨ててあるんです!もっと、よく探してください!一番大きな木の側に、埋めて、ありますから!」
静まり返る、交番。
「でも…私は、やって、ません」
6年後
私が、知らないと言い張った事もあり、だいぶ長い時間が経った。
だけど証拠は、後から、いくつも出てきた。
ナイフには、私の指紋が、びっしり。
きっと私が間違ってたんだろう。
罪名 強盗致死傷罪
ただの殺人じゃなかったらしく、悪質な犯行だから、とか、えーと…そんなかんじ。
私がやりましたと素直に言った瞬間から、刑場で首に紐をかけられるのは、すぐだった?ような気が…?
やっと終われる。
良かった。
さようなら、お母さん。
さようなら、お父さん。
さようなら、シンジ。
ああ、ついに終わる時が来たようで。
ガクン、と体が落ちて…
その時一瞬だけ、最後の最後、
「あの新聞ギャルは、
オッサンは、
…何だったのかしら……?」
おしまい
の、ようだが、おわり、ではない?
ふふふ 井梅さん あなたは。